障害年金の診査に用いる眼の障害認定基準が一部改正されました。
障害年金における,「障害認定基準」は,医学的知見の進歩に伴い,必要な応じて見直しが行われています。
今回,2022年(令和4)年1月1日より「眼の障害認定基準」が改正されています。
これは,2018(平成30)年7月に実施された,身体障害者手帳の基準改正より,検討が行われていたものです。
今回の改正ポイント
- 視力の障害認定基準;基準の変更~「良い方の眼の視力」へ
- 視野の障害認定基準;認定基準1級及び3級の新設
- 視力,視野の障害認定基準の改正に伴う,診断書様式の改正
「眼の障害」で障害年金2級または3級を受給されている方は,この改正により,障害等級が上がり→障害年金額増加となる可能性があります。
改正後認定基準の適用により,障害等級が上がる方で,障害年金の増額を希望される方は,「額改定請求」が必要です。
※額改定請求を行わないと,障害年金は増額されませんので,ご注意ください。
※今回の改正によって,障害等級が下がることはありません。
視力の障害認定基準について
「両眼の視力の和」から「良い方の眼の視力」に基準を変更
●改正後の視力障害の認定基準
障害等級 | 障害の状態 |
---|---|
1級 | 視力の良い方の眼の視力が0.03以下のもの |
視力の良い方の眼の視力が0.04かつ他方の眼の視力が手動弁以下のもの | |
2級 | 視力の良い方の眼の視力が0.07以下のもの |
視力の良い方の眼の視力が0.08かつ他方の眼の視力が手動弁以下のもの | |
3級 | 視力の良い方の眼の視力が0.1以下のもの |
障害手当金 | 視力の良い方の眼の視力が0.6以下のもの |
一眼の視力が0.1以下のもの |
今回の改正により,例えば,右眼の視力0.06,左眼0.07の場合
【2021.12.31までの認定基準】
2級:両眼の視力の和が0.05以上0.08以下
3級:両眼の視力が0.1以下
⇒例示のケースだと,両眼の視力の和は,0.13(0.06+0.07)なので,3級該当
【2022.01.01からの認定基準】
2級:良い方の眼の視力が0.07以下
⇒例示のケースだと,良い方の視力が,(左眼)0.07なので,2級該当
よって,障害等級が上がったり,新たに障害等級に該当される方が発生する可能性があります。
視野の障害認定基準について
- これまでの「ゴールドマン型視野計に基づく認定基準」に加え,「自動視野計に基づく認定基準」を創設
- 「求心性視野狭窄」や「輪状暗点」といった症状による限定をやめ,「測定数値により障害等級を認定」するよう変更
- 自動視野計の導入に伴い,ゴールドマン型視野計に基づく認定基準の整理を行うとともに,視野障害をより総合的に評価できるよう,視野障害についても1級及び3級の認定基準を規定
※3級は初診日時点で厚生年金に加入されていた方のみが対象になりますので,ご注意ください
●改正後の視野障害の認定基準(自動視野計に基づく認定基準)
障害等級 | 障害の状態 |
---|---|
1級 | 両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が20点以下のもの |
2級 | 両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が40点以下のもの |
3級 | 両眼開放視認点数が70点以下のもの |
障害手当金 | 両眼開放視認点数が100点以下のもの |
両眼中心視野視認点数が40点以下のもの |
●改正後の視野障害の認定基準(ゴールドマン型視野計に基づく認定基準)
障害等級 | 障害の状態 |
---|---|
1級 | 両眼のI/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下かつI/2指標による両眼中心視野角度が28度以下のもの |
2級 | 両眼のI/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下かつI/2指標による両眼中心視野角度が56度以下のもの |
求心性視野狭窄又は輪状暗点があるものについて,I/2の指標で両眼の視野がそれぞれ5度以内におさまるもの | |
3級 | 両眼のI/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下のもの |
障害手当金 | I/2指標による両眼中心視野角度が56度以下のもの |
両眼による視野が2分の1以上欠損したもの |
今回の改正によって,例えば,8方向の視野角度の和が80度以下で,1方向のみ11度だった場合
【2021.12.31までの認定基準】
3級:基準なし
障害手当金:両眼の視野が10度以内
⇒例示のケースだと,両眼の視野が1方向のみ11度なので,障害手当金該当
【2022.01.01からの認定基準】
3級:両眼のI/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下のもの
⇒例示のケースだと,視野角度の和が80度以下なので,3級該当
●自動視野計による等級判定について
【両眼開放エスターマンテスト】
- 生活不自由度を評価するために開発されたプログラム。両眼を開けた状態で検査
- 日常生活に重要な領域(中心30度と下半分)を中心に,120点の測定点を配置
- 120点の測定点のうち,認識できた点の数(両眼開放視認点数)で判定
※点数が大きいほど視野が大きい。
【10-2プログラム】
- 中心部を検査する場合に用いられるプログラム。片眼ずつ検査
- 視野角度10度以内の狭い視野の中心範囲に2度の感覚で68点園測定点を上下左右対称に配置
- 68点の測定点のうち,認識できた点の数(両眼中心視野視認点数)で判定
※点数が大きいほど視野が大きい。
●【参考】視野計の種類(厚生労働省HPより)
【ゴールドマン型視野計】
- 視標(目印のようなもの)を被検者が見えない周辺から中心へ手動で動かし,被検者が見えた位置(視野内に光が見えたら,ボタンを押す)を測定図に記録していくことでイソプタ(等感度曲線,視標ごとの感度の限界)を描いていく,動的視野測定法を用いる視野計
- 国内に広く普及していたスイス製のオリジナル機器はすでに製造中止
【自動視野計】
- 内蔵されたプログラムにより,静止した一定の大きさの指標を明るさを変えて様々な位置で提示して,被検者が認識できる感度(中心の光を見つめたまま周囲に出現する光が見えたらボタンを押す)を自動で計測する静的視野測定法を用いた視野計
- 現在の眼科診療ではコンピュータ制御された自動視野計が広く普及
●【参考】視野障害の種類(厚生労働省HPより)
【求心性視野狭窄】
視野の周辺部分から欠損が始まり,見えない部分が中心部に向かって進行するもの
【中心暗点】
中心部に暗点があるもの
【輪状暗点】
中心視野と周辺視野は保たれるが,中心部分が障害されるもの
【不規則性視野狭窄】
視野の一部分が不規則な形で狭くなるもの
視力,視野の障害認定基準の改正に伴う,診断書様式の改正
診断書の様式,注意事項等が日本年金機構のHPにアップされていますので,ご参照ください。↓
◆眼の障害用の診断書を提出するとき(日本年金機構HP) 【別ウインドウが開きます】
これまでの様式に有った視野の図を記載する欄が,視野図の写しの添付に変更され,医師の診断書作成に係る事務負担が軽減されています。
額改定の請求にあたり,以下の点を注意する必要があります。
- 「眼の障害」の認定基準改正による額改定請求は,令和4年1月以降ならいつでも可能。
- 額改定請求の結果,障害等級が上がり,障害年金額が増額改定されるときは,請求月の翌月分から障害年金額が増額となりますので,該当の方は,令和4年1月以降,早めに額改定請求の手続きを行ってください。
- 現在,3級の障害厚生年金を受けている方のうち,1級または2級に該当したことがない方については,65歳を過ぎてからの額改定請求は行えません。
額改定請求や新しく障害年金の請求をする場合には,医療機関ともご相談のうえ,進めていただければと思います。
額改定請求や障害年金の請求手続きについてのご相談・ご依頼は,お近くの社会保険労務士までどうぞ!
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1st Upload 2022.01.06 No.5669
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