なぜ、「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が導入されるのか?
カンタンにいうと、社会情勢の変化。
これまでの高齢者に対する雇用保険の制度設計の考え方について、「収入」という面からみると、一般的に以下のように考えられる。
「60歳で定年 → (一部支給の年金を受給しながら)65歳まで働く → 65歳から本格的に年金生活」
つまり、「65歳まで」の収入の柱は、「自身の労働」、そのサポートとして(万一失業したときに)、雇用保険によるフォロー
「65歳以上」の収入の柱は「年金」、雇用保険によるフォローは不要 ➡ 雇用保険の加入対象外
とされていました。
(※後述しますが、のちに65歳以上の方にも雇用保険のフォローがなされるようにルールが変更されます)
ところが、社会情勢が大きく変わってきます。次が大きなポイント。
- 「人生100年時代」といわれる、平均寿命の伸長
- 少子高齢社会の到来による、「働き手」の不足
これらの情勢の変化に対応していくため、
- 年金制度の見直し ⇒ 年金開始年齢の繰り下げ拡大(上限を70歳から75歳に)
- 企業の「70歳までの就業機会の確保」が努力義務化
と、ほかの制度が見直されていくなか、雇用保険についても、制度の見直しの必要性が高まってきました。
上の「年金開始年齢の繰り下げ拡大」と「70歳までの就業機会確保の努力義務化」によって、これまで、雇用保険の基本的な加入上限である「65歳」を見直さないと、「(65歳から70歳までの)収入の空白期間」が、発生してしまう場合が見込まれるようになってきました。
そこで、「加入年齢の見直し」。基本的に65歳までだった加入上限が、2017年1月1日から65歳以上に拡大(労働時間が1週間20時間以上の方のみ)。
これによって、65歳未満と同じ加入要件になりましたが、実際のところ(個人差はありますが)、「65歳」という年齢が、労務に対して、雇う側・雇われる側、双方ともに不安材料なのか、労働時間が1週間20時間未満の短時間勤務で複数の事業所を掛け持ち、という事例も少なくはないようで、こういった場合は、1か所の事業所で1週間の労働時間20時間以上を満たせないので、雇用保険に加入できず、万一失業した場合、収入が経たれてしまいます。
そのような経緯から、2022年1月1日より、「雇用保険マルチジョブホルダー制度」がスタートすることとなりました。
雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用対象者
雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用対象となるのは、以下の条件をすべて満たしている場合です。
- 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
- 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること
※加入後の任意脱退はできません。
雇用保険マルチジョブホルダー制度で雇用保険に加入すると・・・
雇用保険マルチジョブホルダー制度で、雇用保険に加入した方は、「マルチ高年齢被保険者」となり、失業した場合*1、一定の要件*2を満たすことによって、高年齢求職者給付金(被保険者であった期間に応じて基本手当日額*3の30日分または50日分の一時金)を受給することができるようになります。
*1 2つの事業所のうち1つの事業所のみを離職した場合でも受給することができます。ただし、上記2つの事業所以外の事業所で就労をしており、離職していないもう1つの事業所と当該3つ目の事業所を併せて、マルチ高年齢被保険者の要件を満たす場合は、被保険者期間が継続されるため、受給することができません。
*2 離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上あること等の要件があります。
*3 原則として離職の日以前の6か月間に支払われた賃金の合計を180で割って算出した金額の、およそ5~8割となっており,賃金の低い方ほど高い率となります。
基本的な手続きの流れ
通常の雇用保険の加入との相違点
■本人が手続きを行う
通常、雇用保険資格の取得・喪失手続は、事業主が行いますが、雇用保険マルチジョブホルダー制度は、マルチ高年齢被保険者としての適用を希望する本人が手続きを行う必要があります。
事業主の皆さまは、本人からの依頼に基づき、手続に必要な証明(雇用の事実や所定労働時間など)を行ってください。これを受けて、本人が、適用を受ける2社の必要書類を揃えてハローワークに申し出ます。
なお、当該手続は、電子申請での届出は行っておりませんので、ご留意願います。
事業主の対応と注意点
- マルチジョブホルダーが雇用保険の適用を受けるためには、事業主の皆さまの協力が必要不可欠です。労働者から手続に必要な証明を求められた場合は、速やかな対応をお願いします。事業主の協力が得られない場合は、ハローワークから事業主に対して確認を行います。
- 雇用保険の成立手続が済んでいない場合は、別途手続が必要になります。
- マルチジョブホルダーが申出を行ったことを理由として、解雇や雇止め、労働条件の不利益変更など、不利益な取り扱いを行うことは法律上禁じられています。
- マルチジョブホルダーがマルチ高年齢被保険者の資格を取得した日から雇用保険料の納付義務が発生します。
■参考ページ
【重要】雇用保険マルチジョブホルダー制度について
~ 令和4年1月1日から65歳以上の労働者を対象に「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を新設します~(厚生労働省のHP)【別ウインドウが開きます】
Q&A~雇用保険マルチジョブホルダー制度~(厚生労働省のHP)【別ウインドウが開きます】
雇⽤保険マルチジョブホルダー制度の申請パンフレット(厚生労働省のHP)【別ウインドウが開きます】
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近年の社会情勢の変化に伴って、65歳以上の高齢者の就業機会が、増加してきています。
しかしながら、昨今のコロナによる事業所の閉鎖や事業縮小が相次ぐことにより、高齢者の就業機会が減少した場合、年齢的・体力的な問題から再就職は難しく、どうやって収入を確保していくかが大きな課題となります。
そんななかでの、マルチジョブホルダー制度の誕生は、高齢者の失業時の収入保障はもちろん、就業を続けていくうえで,大きな安心感を生み出すことと考えます。
雇用保険の保険料は、社会保険料とは違い、それほど高額ではありません。
わずかな金額で、保障と安心を得られる、マルチジョブホルダー制度が有効に活用され、社会に役立つ制度となるよう、期待しています。
くわしく知りたい! ➡ そんなときは,お近くの社会保険労務士をご利用ください。
社会保険労務士(社労士:シャロウシ)は,労働・社会保険に関する法律の専門家,国家資格者です。
社会保険労務士について(全国社会保険労務士連合会のページへ)
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1st Upload 2021.12.01 No.5633
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