退職後の健康保険は?
日本の公的医療保険制度は,「国民皆保険制度」となっており,何らかの医療保険に加入しなければならない。
加入の手続き等も退職後は自分自身で行わなければならず,万一手続きをせずに「保険未加入」という状態になると,ケガや病気になったとき,普段は全体の医療費の2割から3割くらいの自己負担支払いで済んでいたものが,全額自己負担となり,医療機関等に莫大な金額を支払わなければならなくなります。
ちなみに診療所で診てもらうだけの「初診料」の全額は,2,880円(2022年3月時点)*1です。処置や検査など何もせず診てもらうだけでこれだけかかります。ほとんどの場合「診てもらうだけ」ということはありませんので,処置や検査,薬を出してもらったりすると,どんどん金額が大きくなってきます。
*1:この金額は「診療点数」といって,健康保険等の保険で診療を受けるときの国が決めた点数(1点=10円)です。すべての医療行為に診療点数が定められています。病院によっては「加算(←コレも国が定めたもの)」といって,これよりも高くなる場合があります。
絶対に病気やケガをしないという保証はどこにもありませんし,医療機関にかからないと自分自身で決めていても,危険な状態になったときは,他の人が救急車を呼んだりするなどの救命措置をとります。救命措置により医療費が発生します。その医療費が払えないと医療機関に迷惑をかけることになります。
「医療費を払えず,医療が受けられなくなる」…そういったことのないように,日本では「国民皆保険制度」がとられています。
話が逸れてきましたので,本題に戻ります。
会社で働いているときは,基本的に会社に適用される健康保険制度に加入しているが,会社を退職したときはどの医療保険に入ることとなるのか?
また,その手続き方法はどうすればいいのか?
会社を退職したあと,加入できる公的医療保険制度は次の3つ。
1.任意継続をする
2.国民健康保険に加入する
3.家族の健康保険の被扶養者になる
退職後の健康保険の3つの選択肢について,どれを選べばいい?
退職後の状況,ライフプランなどを見据えて選択しましょう。
選択にあたっては,主に①加入要件,②加入期間,③保険料が考える基準になるでしょう。
①加入要件
退職後の健康保険の3つの選択肢の中には,加入要件の定められているものがあります。
いくら加入したくても,加入要件を満たしていないものについては,選択肢から外れます。
家族に健康保険の被保険者がいなければ,被扶養者になれませんし,収入金額の制限もあります。
また,任意継続については,加入手続きの期限があります。期限を過ぎると加入できませんので要注意です。
②加入期間
加入期間も検討のポイントです。
国民健康保険であれば,長期的な加入が可能ですが,任意継続は,加入できる期間が2年間しかありません。
退職後,すぐに再就職する場合などであれば,任意継続で問題ないですが,2年後,どの健康保険に加入するか検討しておく必要があります。
③保険料
保険料の支払額も重要です。
任意継続の場合は,退職前の給与に関係してきます。また,保険料は会社との折半でなくなるため負担が2倍になります。
国民健康保険料については,前年の所得等をもとに各市区町村で定められたルールで計算されます。
家族の健康保険の被扶養者の場合は,保険料の負担はゼロです。
その他:上記のほかに考慮すること
○保険給付の内容
例)国民健康保険や任意継続には「出産手当金」なし,任意継続には「傷病手当金」なし など。
〇家族(被扶養者)の人数
例)国民健康保険には被扶養者の考え方がありませんので,例えば退職前に配偶者が被扶養者だった場合,配偶者も被保険者として加入しなければならないため,ご夫婦2人分の保険料負担が必要になります。
1.任意継続をする
退職前に加入していた健康保険へ任意継続する方法。以下の条件をすべて満たす必要があります。
任意継続するための条件
- 健康保険の資格喪失日(=退職日の翌日等)までに,健康保険の被保険者期間が継続して2カ月以上あること。
- 健康保険の資格喪失日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出すること。
※特に「資格喪失後20日以内」に手続きをしないとダメで(郵送手続きの場合も20日以内に必着),期間を過ぎると受け付けてもらえませんので,期間内に早めに手続きをしておく必要があります。
任意継続の手続き
加入していた健康保険の窓口へ。
※自分自身で手続きする必要があります。➡ お近くの社会保険労務士に依頼していただくことも可能です(費用がかかります)。当事務所へのご依頼はコチラから。
※どの健康保険に入っているか分からないとき ⇒ 健康保険証に記載されていますので,ご確認ください。
○協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合
任意継続被保険者資格取得申出書 | 申請書 | 全国健康保険協会 (kyoukaikenpo.or.jp)【別ウィンドウが開きます】
保険料
住んでいる都道府県の保険料額表で,自身の退職時の標準報酬月額にあてはまる保険料。
保険料上限があり,退職時の標準報酬月額が30万円を超える場合,標準報酬月額は30万円となる。
※標準報酬月額は,簡単に言うと税控除前の給与額の区分のこと。1~50等級まで区分されている(2022(令和4)年3月から分)
任意継続被保険者は,会社との保険料の折半はないので,【全額】に記載されている金額が保険料の支払額となる。
原則2年間は保険料の変更はないが,都道府県の保険料率が変わった場合等,金額が変わる。
支払期日までに保険料を支払わなかったときは,自動的に被保険者の資格を失うので要注意。
保険給付の内容
任意継続の保険給付は,次の2つを除いて退職前の健康保険の給付と同じです。
- 傷病手当金
- 出産手当金
※いずれも,所得補償的要素の給付であるため,退職しているので所得補償は不必要(存在し得ない)という考え方で除かれている。
加入できる期間と資格喪失
任意継続の加入期間は,任意継続被保険者となってから2年間。
資格喪失:以下の場合,任意継続被保険者の資格を喪失する。カッコ内()は,資格喪失する日。
任意継続被保険者の資格喪失後,再度任意加入被保険者になることはできない。
※健康保険の被保険者になって,退職等で任意加入する場合を除く。
- 保険料を納付期日までに納付しなかったとき。(納付期日の翌日)
- 就職して,健康保険,船員保険,共済組合等の被保険者資格を取得したとき。(被保険者資格を取得した日)
- 後期高齢者医療の被保険者資格を取得したとき。(被保険者資格を取得した日)
- 任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を申し出たとき。(申出が受理された日の属する月の翌月1日)
- 被保険者が死亡したとき。(死亡した日の翌日)
2.国民健康保険に加入する
手続き
市区町村によって,手続きが違いますので,各市区町村の国民健康保険を担当する窓口へ確認してください。
保険料
国民健康保険料については,前年の所得等をもとに各市区町村で定められたルールで計算されます。具体的な金額については,お住まいの市区町村の国民健康保険の担当部署にご確認ください。
給付
協会けんぽの「傷病手当金」「出産手当金」に該当する給付はありません。
3.家族の健康保険の被扶養者になる
保険料
健康保険被扶養者の保険料は0円です(負担はありません)。
被扶養者の要件と手続き
従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構 (nenkin.go.jp)【別ウィンドウが開きます】
給付
保険給付の種類と内容 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会 (kyoukaikenpo.or.jp)【別ウィンドウが開きます】
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退職後の健康保険について,どの制度が利用できるのか,複数の制度が利用できる場合,どの制度がふさわしいのか,ライフプランにあった制度への手続きを進め,万一のケガや病気に備えることで安心を確保するようにしていただければと思います。
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社会保険労務士(社労士:シャロウシ)は,労働・社会保険に関する法律の専門家であり,国家資格者です。人を大切にする企業づくりの支援をしています!
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1st Upload 2022.04.01 No.5754
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