労災保険は「労働者」じゃなくても,加入できる?~特別加入制度

ITフリーランスや中小事業主,一人親方等でも,労災保険に加入できるしくみが「特別加入制度」です。

なぜ,「労働者」じゃないと,労災保険に加入できないの?

「労災保険」の目的と考え方について

労働基準法により,労働者の業務上災害については,無過失賠償責任を負うものとされ(労働基準法 第8章(第75条~第88条)),労災保険法によって,その災害補償責任を社会保険によって担保することとされている。

これを専門用語を使って法律的に言うと,

労災保険は、労働者災害補償保険法に基づき,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするために保険給付を行い,併せて被災労働者の社会復帰の促進,被災労働者及びその遺族の援護,労働者の安全及び衛生の確保等を図ることにより,労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

つまり,被災した労働者に対する補償がなされない場合,社会保険でカバーすることが,「労災保険」の目的です。

労災保険の対象者について。~労災保険に加入できない人は,どうしたらいいの?

前節から,労災保険は,「労働者」を対象にしていますので,「労働者」が加入対象です。。
ここでは「労働者」とは,日本国内で事業主に雇用され,賃金を受ける方をいいます。

つまり「労働者」でない方たちは,労災保険に加入できないことになります。

例えば,事業主,自営業主,(雇用関係にない)家族従事者は,「労働者」にあたらないため,労災保険に加入できないことになります。

しかしながら,中小事業主や一人でされている自営業主,他の労働者と一緒に仕事をしている家族従事者は,他の労働者と同じような実態で働いていることがほとんどです。

こういった方々を,万一,業務上の際が発生したときに,労働者に準じた扱いで労災保険を適用し,保護していこうとするのが,特別加入制度の発端です。

特別加入の対象者について

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2021(令和3)年12月末時点での対象者は以下の4区分です。

  • 中小事業主等
  • 一人親方等
  • 特定作業従事者
  • 海外派遣者

■中小事業主等

中小事業主等とは,以下の①,②にあたる場合をいいます。

 ①下表に定める数の労働者を常時使用する事業主(事業主が法人その他の団体であるときは,その代表者)

表 中小事業主と認められる企業規模

業種労働者数
金融業,保険業,不動産業,小売業50人以下
卸売業,サービス業100人以下
上記以外の業種300人以下

※1つの企業に工場や支店などがいくつかあるときは,それぞれに使用される労働者の数を合計したものになります
※業種の区分については,原則として日本標準産業分類によることとしています。

 ②労働者以外で上記①の事業主の事業に従事する人(事業主の家族従事者や,中小事業主が法人その他の団体である場合の代表者以外の役員など)

■一人親方等

労働者を使用しないで,次の❶~❾の事業を行うことを常態とする一人親方その他の自営業者およびその事業に従事する人(以下「一人親方等」という)

  1. 自動車を使用して行う旅客もしくは貨物の運送の事業(個人タクシー業者や個人貨物運送業者など)または,原動機付自転車もしくは自転車を使用して行う貨物の運送の事業
    (個人タクシー業者や個人貨物運送業者など)
    詳細は,下表を参考に。
  2. 土木,建築,その他の工作物の建設,改造,保存,原状回復*1,修理,変更,破壊もしくは,解体またはその準備の事業
    (大工,左官,とび職員など)
    *1 除染を目的として行う高水圧による工作物の洗浄や側溝にたまった堆積物の除去などの原状回復の事業も含む
  3. 漁船による水産動植物の採捕の事業(❼に該当する事業を除く)
  4. 林業の事業
  5. 医薬品の配置販売(医薬品医療機器等法第30条の許可を受けて行う医薬品の配置販売業)の事業
  6. 再生利用の目的となる廃棄物などの収集,運搬,選別,解体などの事業
  7. 船員法第1条に規定する船員が行う事業
  8. 柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師が行う事業
  9. 改正高年齢者雇用安定法第10条の2第2項に規定する創業支援等措置に基づき,同項第1号に規定する委託契約その他の契約に基づいて高年齢者が新たに開始する事業または同項第2号に規定する社会貢献事業に係る委託契約その他の契約に基づいて高年齢者が行う事業

表 自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業一覧表

道路運送法(昭和26年法律第183号)第4条の一般旅客自動車運送事業の許可を受けた者
貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)第3条の一般貨物自動車運送事業の許可を受けた者
事業の実態が運送の事業に該当し,土砂等を運搬する大型自動車による交通事故の防止等に関する特別措置法(昭和42年法律第131号)の適用を受ける者
貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)第36条の貨物軽自動車運送事業の届出を行った者
自ら保有する二輪の自動車を,バイク便事業者に持ち込んで,当該バイク便事業者に専属して貨物を運送する者であって,道路運送法(昭和26年法律第183号)第78条第3号の有償運送の許可を受けた者
※エのうち,二輪の自動車を所有する貨物軽自動車運送事業を行う者をいう。
原動機付自転車を使用して行う貨物運送事業(他人の需要に応じて,有償で,貨物を運送する事業)を行う者
自転車を使用して行う貨物運送事業(他人の需要に応じて,有償で,貨物を運送する事業)を行う者

※労働者を使用する場合であっても,労働者を使用する日の合計が1年間に100日に満たないときには,一人親方等として特別加入することができます。

■特定作業従事者

特定作業従事者として,特別加入できるのは,以下の通りです。
ただし,それぞれ一定の要件があります。

  1. 特定農作業従事者
  2. 指定農業機械作業従事者
  3. 国又は地方公共団体が実施する訓練従事者
  4. 家内労働者およびその補助者
  5. 労働組合等の一人専従役員(委員長等の代表者)
  6. 介護作業従事者および家事支援従事者
  7. 芸能関係作業従事者
  8. アニメーション制作作業従事者
  9. ITフリーランス

特定作業従事者の詳細はコチラ▼▼▼
特別加入制度のしおり(特定作業従事者用)-特別加入者の範囲(特定作業従事者) |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
【別ウインドウが開きます】

■海外派遣者

海外派遣者として特別加入することができるのは,次のいずれかに該当する場合です。

①日本国内の事業主から,海外で行われる事業に労働者として派遣される人

②日本国内の事業主から,海外にある中小規模の事業(下表参照)に事業主等(労働者ではない立場)として派遣される人

業種労働者数
金融業,保険業,不動産業,小売業50人以下
卸売業,サービス業100人以下
上記以外の業種300人以下

※派遣される事業の規模の判断については,事業場ごとではなく,国ごとに企業を単位として判断します。

③独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて,開発途上地域で行われている事業に従事する人

(ご注意)

 新たに海外に派遣される人に限らず,すでに海外の事業に派遣されている人でも特別加入することができますが,現地採用の場合は,国内の事業からの派遣ではないため,特別加入することはできません。

 また,単なる留学を目的とした派遣についても,海外において事業に従事するものと認められないため,特別加入することはできません。

特別加入制度により,一般の労働者と同じように働いている中小事業主や一人親方等も,業務上の災害が発生した際に,労災保険で保障されるようになり,安心して日々の業務に就けるようになります。保険料も割高ではありませんし,国が運営していますので。何かあってからでは遅いので,リスクが想定される場合は,「もしも・・・」に備えて,特別加入を検討されるのもよろしいかと思います。

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1st Upload 2022.02.02 No.5696

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